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第1部 一章 【財前姉妹】その3 第六話 芸術家マナミ

Author: 彼方
last update Last Updated: 2025-03-29 06:58:07

29.

第六話 芸術家マナミ

「さて、いつも通り感想戦といきたい所だけど今日は遅いから帰りなさい。今日疑問があったことは忘れないうちに何かにメモしておいて後日それについて検討します。それでは解散! なるべく明るい道を通るなどして気をつけて帰るように」

「「ありがとうございました!!」」

 少女達はいつも通り部屋を片付けようとするが「今日はいいから早めに帰りなさい。もう真っ暗だから片付けはおれとユウでやっとく」とスグルは少女達を帰した。

「ありがとうございます」

「じゃあな、おやすみ」

────

 少女達は様々な会話をしながら駅までの道を歩いた。

 とくに1年生達は麻雀の会話で盛り上がっていたので⑦筒切りの謎など質問されてはかなわんと思ったカオリはミサトやマナミと一緒に恋バナをしながら歩いているグループに混ざってやり過ごした。

「ミサトはモテるでしょう? すごくキレイだもんね」

「そんなわけないじゃない! 私みたいなこんな気の強い女はモテとは無縁よ」

「ひそかに気にしてる男子はたくさんいそうだけどねー」

「そんな弱気な男はこちらから願い下げよ」

「ははっ! そりゃそうよね」

「マナミこそモテるでしょう?」

「当たり前じゃない。私はモテまくりよ。特に女子から……」

「なんか分かる気もする」

「やめてよ、私はノーマルよ。なんでこうなってるのか分からないんだから」

2人の話を聞いていたらカオリにも質問が飛んできた。

「カオリはモテるわよね」

 そう、カオリはモテるのだ。男子人気はクラスNo.1と言っていい。そんなカオリだが彼氏を作ったことはなかった。

「なんだか好かれてることはよくあるけど、私のどこを好きなのか分からないし。私は今はお付き合いとかしてる時間もないし。あまり興味もないから」

「言ってみたいわそんな事」

「カオリと私達のどこにこんな差があるのかしら。おかしいわ」

 するとアンが横から入ってきた。

「確かにカオリ先輩はモテてます。でも、それってドラの受け入れが無い手の人が何枚もドラを持ってくるようなもので毎回引いては切ってのムダヅモですよね」

カオリはまさにそれ! と思い笑った。

「いらないのになんとなくキープしても後で切るのがつらいだけだし。アンはうまいこと言うわね」

「私らは彼氏(ドラ)受けあるんだけどなぁ」

「世の中うまく噛み合わないわね」

 ほんと人生と麻雀は似てるなって笑いながら歩いてるうちに少女達は水戸駅に到着し電車に乗って帰って行った。

◆◇◆◇

 家に帰るとマナミはすぐに風呂に向かった。気持ちは分かる。

 カオリ達はもう麻雀に集中し過ぎていて冷や汗やら脇汗やら手汗でびっしょりだった。早く流したい。

 特に背中が気持ち悪い。こんなに濡れるものか? カオリは運動をしたわけでもないのにここまでの汗をかいたのは初めてだった。

 風呂場からシャワーの音とマナミの鼻歌が聴こえてくる。優勝してごきげんなのだろう。歌ってるのは意外にもクラシック曲。『芸術家の生涯』だ。

 たしかに、マナミの麻雀は芸術性の高いものだった。特に今日の最後のアガリなど芸術以外のなにものでもない。

(そういうのを自分の持ち味として心掛けてるのかな。だとしたら今日の結果もうなずける。嗅覚が鋭くてアガリ回数が多い上に芸術家か。手に負えないな)

 カオリはベッドの上に着替えとタオルを用意してマナミが上がるのを待ちながら今日起きた不思議なことを思い出していた。そして、そんな力を持ってしても優勝を逃したということがたまらなく悔しかった。けど、悔しいからって落ち込んでるだけの弱い女ではないのが財前カオリである。

(そうだ、今日womanが言ってたこと教えてもらう前にひとつずつ自分で考えてみよう。4(チー)56のオーラス1巡目仕掛けに対して113から1を捨てなさいっていうのから始まったのよね。あれはどういうことなのかな?)

「おまたせ~! カオリも入るでしょ?」マナミが機嫌良さそうに出てきた。

「うん、マナミ」

「ん?」

「……今日はおめでと!」

「ありがとう!」

 そう言うとマナミは自室(という名のロフト)に入りカオリは風呂場へと向かった。

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